第9章:純二の視点(小説「悔恨」)
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今日の事。
「そろそろ、丁度いいころか。」
もう終わりにしたい。どこで人生の歯車はおかしくなったんだ。
株式会社ニュートンスクエア設立の頃は本当に幸せだった。
あの頃に戻りたいなんて、思わない。
もう、宗像君の提案に乗るしかない。
そうでもしないともう破滅だ。
ひどく頭が痛い。
母親の面倒を見て行かないといけないんだ。俺が井川家を支えて行くんだ。
俺が悪いんじゃない。
誰だってそうするはずだ。給料だって数か月貰ってないんだ。
井川純二は、事務所の入るマンションの最上階が見える公園のベンチに腰を降ろして、自分自身に強く言い聞かせていた。
先程、買ったばかりのマイルドセブンの封を開け、煙草を燻らせながら立ち上がった。
そろそろ、事務所に戻ろう。
あいつからお願いされた金策はしていない。
他の店長たちにもその必要はないと伝えている。
必死になって金策しているのは弘一朗だけだ。
これ以上続けて何になる、どうせまたお金に詰まるだけだ。
あいつは経営者に向いていないんだ。傲慢で、見栄張りで、自分だけが正しいと思っている。
ここで終わるのはあいつだけで十分だ。
俺は何としても生き残る、別に社長がしたいわけでは無いんだ。
思いを共にできる仲間と、幸せの感じられる会社をやりたいだけだったんだ。
宗像君となら、きっとやっていける。
井川純二がいう“宗像君”とは、今の事業を始めるにあたってお手本にした、東京で成功を収めている純二の知り合いの社長だ。
年齢は純二より二つ下で、株式会社イーロンのハワイ旅行の際に知り合い、その後は宗像が来福の際は、二人きりで飲みに行く程親しくしていた。
年長の純二のことを純二さん、純二さんと懐いてくる礼儀正しい青年だ。
お手本と言っても、ショップのシステムが全く同じという訳では無かった為、宗像には報告してはいなかった。
弘一朗がショップを売却すると決めてから接触した。
今日より、3日程前のことだ。
「宗像君、井川です。少し仕事の事で話あるんだけど聞いてくれるかな?」
「もちろんです。なんですか純二さん。」
「今ね、宗像君がやっているショップに似ている感じなんだけど、福岡で4店舗やっているんだ。ごめんね、事後報告になって。それでまとめて全部売却しようという話になっていて、宗像君のところ如何かなと思って電話したんだ。」
「そうだったんですね。いつのまに4店舗もやっていたんですか?すごく興味あります。
それは、純二さんが社長でやっているんですか?」
「そうか其れなら良かった。社長はね俺じゃないんだ。他の奴にやらせている。だけど実質俺が経営者みたいなもんだよ。」
言ってしまった。売却交渉の時は、弘一朗が同席しないようにしないといけない。かわいい後輩の前で恥をかかされてしまうのだけは御免だ。
「じゃあ、どうしよう。一度会って話をしないといけないね。実はあまり時間が無くて、もう一社話をしているところがあるんだ。」
「すぐに福岡行きますよ。もう電話で聞いた時点で買おうと思っていますけどね。何といっても純二さんの依頼ですから。」
明日には来福してくれる。
あいつが直接売却交渉している株式会社ネクストドアは俺も知っている。
前の会社であいつの同期だったやつが経営している会社で利益も出ている。
ただ、今すぐの買収には躊躇している節がある。
そこに売却されたら俺は今までと何も変わらない。
あいつより先に、宗像君のところに売却しないと何も変わらないんだ。
あいつばかり良い思いしやがって。
あいつの許しが無ければ俺は、車の一台も自由に買えなかった。
こっちがこの年で彼女の一人もいないっていうのに、あいつは綺麗な奥さんばかりか、若い飛び切りの愛人までいる。
しかも、二人共から愛されている。
なんであいつばかりなんだ。
昔からだ、高校時代も、サラリーマンの時も、あいつばかり、あいつばかり。
あいつの父親も一緒だ。
肝心な時に姿を消しやがった。
なんて、無責任な奴だ。
俺の”お父さん”があんなことになったっていうのに、・・・。
”お父さん”が言っていた。もう小さくなったからだで苦しそうに。
「純二、自分らしく生きなさい。」
「お父さんみたいになっては駄目だ。仲間の事で困ったことがあれば、弘一朗のお父さんに相談しなさい。一度は助けてくれるはずだ。」
“お父さんと”弘一朗の親父さんが何を話したかはしらないが、無責任に逃げたじゃないか。
谷中君も一緒だ。
俺の事を守ってくれなかった。
俺には厳しいこと言うくせに、あいつのいう事は止められなかった。いやそればかりか、言いなりだったようにも見える。
結局あいつらは自分たちだけが良ければいいんだ。
俺はもう、自分の事しか考えない。
今日より2日前。
純二は宗像と接触した。
日帰りしないといけないという宗像と、全ての店舗を視察して回った。
途中、喫茶店に寄り、売上表を見せた。
テレビボードを販売していた時の売上は凄まじく、宗像はとても驚いていた。
販売中止の経緯は作り話をした。
販売中止後の売上は大きく下降していたが、オリジナル商品は他にも作れると嘘をついた。
その場で宗像は買収を決めた。それと同時に福岡支店を開設し、純二が支社長になることも決定した。
今日より1日前。
借入金返済期日に売却が決まったことを報告することに決めた。
あいつはどんな条件でも飛びつくはずだ。
もし、株式会社ネクストドアで話が決まりかけていたとしても、それ以上の金額を提示すればなんの問題もない。その件に関しては既に、宗像君とすり合わせ済みだ。
返済日まであと二日。それまでは金策しているふりをするだけだ。
1章:ひかり
2章:友情
3章:変化
4章:親子の関係
5章:勝負
6章:破滅
7章:悟の狙い
8章:父の想い
9章:純二の視点
10章:回想
最終章:闇の真実
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